言葉のプロが惹かれた教育プロジェクト──多様な感覚で学ぶ未来

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PROFILE 鈴木 円香 Material Resource Team Lead 京都大学総合人間学部を卒業後、朝日新聞社・ダイヤモンド社にて編集業務を経験。2016年に独立。女性向けニュースメディア「ウートピ」編集長としてメディア運営・コンテンツ戦略に携わるほか、フジテレビ「めざまし8」、AbemaTV「Wの悲喜劇」にてコメンテーターとしても活動。長崎県五島市のワーケーション事業や宿泊事業を設計する一般社団法人みつめる旅代表理事も務める。現在はママ人材を中心とした広報PRサービスを提供する株式会社まるプロ 代表取締役社長。2024年10月から本業のかたわらクロステック・マネジメントのプロジェクトに参画している。
 

子育てとキャリアの交差点で見つけた、独立とキャリアチェンジへの可能性

──現在に至るまで、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?
修士課程中に結婚し、2年ほど京都で専業主婦をしていましたが、「何か物足りない」と感じ、編集の仕事を志すように。新卒枠から外れていたため、業務委託で入りやすい編集業を選び、朝日新聞出版でキャリアをスタートしました。その後ダイヤモンド社に転職し、出産後に独立。女性向けWebメディアの編集長として、紙とは異なる編集のスピード感やデータ活用の面白さに魅力を感じました。その後は企業の広報やPR案件を受けるようになり、法人化。編集の経験が企業の課題解決にも活かせると実感し、広報PRを軸に活動するようになりました。
──独立から広報PRに軸足を移すまで、どのような経緯があったのでしょうか?
独立を決めたのは、自分の仕事が社会にどう役立っているかを、もっと実感したかったからです。大手企業では反響が見えにくく、「もっと手応えのある場所で働きたい」と考えるようになりました。編集の仕事を続ける中で、企業の広報やPR支援のニーズに触れ、課題整理やメッセージ設計に自分の経験が活かせると感じるように。やがて法人化し、広報PRを軸に事業を展開しています。また、同じように子育てと仕事を両立する編集者仲間と連携し、「安心して力を発揮できる場をつくりたい」とチームを結成。お互いの強みを活かし合う形で、現在の広報PR事業の基盤を築きました。
 
 

重なり合う“面白さ”が導いた、次の挑戦へ

──クロステック・マネジメントへのジョインには、どんなきっかけや背景があったのでしょうか?
クロステック・マネジメントに参画したきっかけは、私が信頼する旧知の仲間、川原崎さんからの紹介でした。「まどかさんに合うプロジェクトがある」と声をかけてくれて、まずその気持ちがすごく嬉しかったんです。信頼している人が薦めてくれたというのは、やっぱり大きかったですね。話を聞く中で特に惹かれたのは、「芸術大学に関われる」ことと、「今ないものをゼロからつくる」というチャレンジができることでした。実は高校生の頃、芸術大学を目指していた時期があって。最終的には普通の四年制大学に進学しましたが、芸術や創造の世界にはずっと興味がありました。また、プロトタイプから始められるという話を聞いて、「全くのゼロからつくっていけるんだ」というワクワクがありましたね。さらに惹かれたのは、組織のあり方です。
業務委託という柔軟な関わり方でありながら、強いメンバーシップで結ばれている。このスタイルは、自分の会社でも実践していることであり、「これこそが未来の組織の形だ」と共感できたポイントでした。とはいえ、自分の会社を運営しながら1日4時間、50%のコミットで関わることには迷いもありました。それでも、「面白そう」「ぜひやりたい」という気持ちが勝って、時間をひねり出してジョインを決めました。それだけ、このプロジェクトには大きな魅力があったんです。実際に関わってみると、広報やPRのルーティン的な仕事では得られない刺激にあふれていて。特にAIを活用したコンテンツ制作は、自分にとって新しい挑戦でした。プロンプトの設計ひとつで成果が大きく変わる。そうした日々の学びが、自社の仕事にも活かされている実感があります。
 

「わかる」瞬間を設計する

──現在、Material(教材開発)チームではどんな業務に取り組まれているのでしょうか?
私たちのプロジェクトは、通学・通信、年齢や国籍、さらには障がいの有無など、多様な背景をもつ人々が「ハードルを感じずに学べる」ための教材をつくることを目指しています。オンデマンド学習、対面授業、リアルタイムのオンライン授業、書籍による座学──さまざまな形の学びがありますが、それらすべての基盤となる“素材”をつくっていくのが、Materialチームの役割です。
私はこの半年間、教養・芸術教養系の教材のプロトタイプ制作に取り組んできました。大事にしていたのは、「わかる」こと。授業を聞いたけれど何も残っていない、という体験を私自身大学時代に何度もしてきたので、「わかった」「腑に落ちた」と思える瞬間を教材ごとに設計するように意識して作っていました。
実は私、物分かりがあまり良くないタイプなので(笑)、「自分でも本当にわかるか?」を何度も自問しながら教材制作に向き合っています。ただ、参考にできる既存のコンテンツがほとんどなくて。私たちが作っているのは「いまだ存在しない教材のスタイル」です。AIをフル活用しながら、あらゆるバックグラウンドの人が多様な媒体でスムーズに学べるようなもの。
最初のプロトタイプは、まずは自分の感覚を信じて何とか完成させました。第一弾はビジュアル重視の教材を形にしたので、次は、音声中心でじっくり聴かせるスタイルに挑戦しようとしています。
 

「想像したものを形にする」本能的な楽しさ

──「まだ世の中に存在しないものをつくる」ことへの強いモチベーションを感じます。それってどこから来るんでしょうか?
これはもう、体質的なものだと思います。自分の頭の中で想像したものを、現実の世界に具現化するプロセスがとにかく好きなんです。たとえば、五島列島で地域創生のプロジェクトをやっているんですけど、宿泊施設をゼロからつくったり、イベントを企画したり。全部、頭の中で思い描いたものを形にしてきました。
教育においても、「こうだったらいいのに」という思いはずっとありました。本を読むのは好きですが、学ぶ手段としては、視覚や聴覚などの多様な感覚が組み合わさっている方が記憶に残るタイプなので。大学教育がもっと多様な学び方を提供できたらいいのに、と感じていました。人間の脳って本来とても多様なはずですから。 ──「まだ世の中に存在しないものをつくる」ことへの強いモチベーションを感じます。それってどこから来るんでしょうか?
そうですね。京都芸術大学の創設者・徳山詳直さんの『藝術立国』という本を読んだとき、この人は本気で世界を変えようとしていたんだと衝撃を受けました。ただ理念を掲げただけではなく、猛烈に行動し続けた人なんですよね。そういう行動力こそが、大学組織のDNAになっているんだと思います。創設者の思いが今もなお受け継がれていて、それが大学運営の基盤になっている。その事実に心を打たれました。
「芸術の力で平和を実現する」という大きな理想に、本気で取り組んでいる大学なんだと思います。しかもその理想を、誰もがアートにアクセスできる世界をつくるDXプロジェクトとしても実装しようとしている。そんなスケールの大きな取り組みに関われることなんて、そうそうない。だからこそ「やりたい」と強く思いました。
それに、今一緒に働いている仲間たちも本当に魅力的なんです。表現の仕方ひとつ取っても、誰も思いつかないような切り口でアプローチしていたりして、毎回刺激を受けています。みなさん分野は違っても、それぞれがプロフェッショナルで、強い想いや志を持っている。それでいて、単なるトップティア人材の集まりではなく、組織としては「素敵な才能を持ち寄る」という思想がベースにある。ヒエラルキーでも競争でもなく、共創なんですよね。そんな場所に誘っていただけたこと、本当にラッキーだったと思っています。